「体験を通じて養う“生きる力”」
本校の目指すものとして、「体験を重視した教養教育」というものを、開校当初から掲げてきました。本校の3つの教育目標、「和の精神」、「逞しく生きる力」、「科学的に物事を見る力」を身につけるためには、そして、将来の社会でリーダーとして活躍するためには、何を、いかに「体験」してきたかということ、多様な価値観に対応できるバランスのとれた「教養」を身につけておくことが、今の中高生に必要ではないかと考えます。
挨拶から始めてみる
「こちらから話し始めなければ、何も始まらない」はずなのに、黙っていて、時折口を開く時には、相手への批判か不平不満の言葉。責任はだれかに預けようとする。そんな子どもたちが多くいます。そして、そんな子どもたちが往々にして言うのは、「何を話していいのか分からない」です。
そんな時、私たちは「挨拶」から始めてみなさいと呼びかけます。礼儀正しく、大きな声で挨拶すること。これがコミュニケーション力をつけるための第一歩だと教えます。単に挨拶だけができればよいという訳ではありませんが、どんな難しい話をする時でも、まず挨拶を交わし合うことから始まりますし、それによって相手との距離を見極め、相手に応じた話し合いができるはずです
相手の心を開くには
本校では、各学年での宿泊研修や、社会見学、企業・研究所訪問、全校生対象の登美ヶ丘講演など、通常の授業以外にも様々な「体験学習」の機会を用意しています。そうした「体験」の折に重要なのは、まず「事前学習」であると言っています。何も知らないでそこへ行き、ただ見学して、話を聞いても「体験」したことにはなりません。事前の学習があってこそ理解できることがあり、疑問も生まれます。「体験活動」で一番大切なことは、「疑問を持ち、それを相手に質問すること」です。相手は驚きます。ただ見物に来たのではなく、すでに自分たちにこれだけの関心を持ってくれていたのかと喜んでくれます。白浜の大学の研究所においても、沖縄の平和学習においても、オーストラリアのホームステイ先でも、本校の生徒は「質問」をします。よい質問もあれば、かわいらしい質問もあります。また、下手な英語もあります。でも、その質問の後に、語り手の方々はそれまで以上に本気になってその質問に答えようとしてくれます。「質問」した生徒も誇らしげです。コミュニケーション力とは「事前に調べ、そして相手の話を聞き、そこで感じた疑問を相手にぶつけてみること」だと言っています。
インプットからアウトプットへ
そして、本校ではこの後にさらにコミュニケーションのための活動を生徒に求めます。それは、「体験の後には必ず、考えよ、まとめよ、発表せよ」ということです。事前学習において調べたことが、実際の体験によってどのように膨らんだのか、違いがあったのか、誰と出会い、何を話したのか、など、「事後の報告」をまとめること、そしてそれを発表する場をできる限り設けるようにしています。「質問」で完結するのではなく、最終的には自ら伝える力がコミュニケーション力だということを教えるためです。
「体験」から自分を見つめる
なぜ「体験」を重視するのか。それは、今述べてきましたように、生徒たちの将来に是非とも必要なコミュニケーション力を養成したいと考えているからなのです。「調べること、体験すること、考えること、まとめること、発表すること」によって培われるのは、コミュニケーション力だけでなく、生徒たちの学びへのモティベーションということもあります。体験を通じて、いろいろな人や多様な価値観と出会うことによって、生徒たちは新たな自分の興味に気づきます。また、今の自分に何が欠けているのか、何を身につけなければならないのかを考えます。今の毎日の勉強がどこに、どうつながるのかを理解し始めます。宇宙の話から文学へ、経済や法律の話から数学へ、医学の話から哲学へ、スポーツの話から物理・化学・生物へと、一つができればよいのでははく、今の勉強は将来自分が目指すであろう役割にすべて関係があるのだということを知れば、彼らの学習へのモティベーションは高まります。
良き伴走者として
もちろん、今述べてきたようなことのすべてが実現している訳ではありません。しかし、まずは挨拶から、次に質問を、そして相手に伝えることを、と本校で行われる授業や行事の中から、生徒一人ひとりが学んでいってくれています。あの学校の卒業生はよく学ぶ、よく活躍すると言われる生徒を育てたいと、私たちは考えています。
各学年の、各生徒が、各々の目標に向かって懸命に取り組んでいます。私たちは、そんな彼らに上手く寄り添いながら、彼らの良き案内人、良き伴走者、良き補佐役でありたいと思っています。