




◇2025-11-26 (水)
朝晩の冷え込みがぐっと増し、秋が深みを帯びる季節となりました。旧居の廊下を抜け、中庭に目をやると、茶室を背にした紅葉が鮮やかな朱に染まっています。葉は陽光を受けて透けるように輝き、初冬へ向かう静けさの中に、ひときわ華やかな彩りを添えています。紅葉は古くから多くの人が心惹かれてきた題材です。
『百人一首』では、能因法師が「嵐吹く 三室の山の もみじ葉は 竜田の川の 錦なりけり」と詠み、色づく葉を錦に例えてその美を讃えました。また、清少納言は『枕草子』の中で散り敷く紅葉の光景をこよなく愛し、秋の明るさを映し出す象徴として記しています。近代に目を向けても、紅葉は作家たちの表現を大いに刺激してきました。
樋口一葉の『にごりえ』では「町外れのもみぢの影も、夕日に赤く燃え...」と、燃えるような色合いがもの寂しさを際立たせています。さらに谷崎潤一郎の『細雪』、太宰治の『富嶽百景』、川端康成の『伊豆の踊子』など、数多くの名作に紅葉が登場し、人の心の揺らぎや季節の情緒を映す重要なモチーフとなってきました。紅葉の鮮烈な色合いは、移ろいゆく感情や、過ぎゆく季節の哀感を照らし出す鏡だったようです。
晩秋の今、旧居にも紅葉を愛でに訪れる方々が増えています。とりわけ秋になって海外からの来訪者が目立ちます。最近はフランスやドイツなどヨーロッパからの訪日客が増えており、旧居の静かな佇まいと紅葉の対比を楽しむ姿が印象的です。
サンルームに置かれた「思い出ノート」を開くと、日本語に交じって海外から来訪された方々のメッセージが並んでいます。
「素晴らしい場所を発見する機会を与えてくれて、ありがとうございます。(フランス)」
「この場所はどの季節も美しいのでしょうね。(カナダ)」
「きっとまた戻ってきます!(ドイツ)」
「ここは信じられないほど好きです。(台湾)」
と、国境を越えて旧居への深い共感が綴られています。
色づく庭を眺めていると、志賀直哉の暮らした日々と、今この場所に魅了される人々の思いが、静かに重なり合っていくように感じられます。