学校法人奈良学園

ニュース & トピックス
ニュース & トピックスニュース & トピックス

ニュース & トピックスニュース & トピックス

◇2025-07-25 (金)

7月の志賀直哉旧居

  • 7月の志賀直哉旧居
  • 7月の志賀直哉旧居
  • 7月の志賀直哉旧居
  • 7月の志賀直哉旧居

 この夏は異例の暑さに包まれています。
旧居のある高畑町でも日中の気温は38度に迫り、空気はまるで地面から立ち上がる陽炎のように揺らぎ、庭の緑さえもその輪郭を霞ませているように見えます。
日本の夏は本来、湿度こそ高いものの、朝夕には風が立ち、どこかしらに涼がありました。しかし近年の終日の酷暑は、もはや季節の余白を奪うような激しさです。

 江戸時代に斎藤月岑が著した『武江年表』や明治・大正期の新聞には、「夕涼み」や「納涼船」「打ち水」といった季語が日常に溶け込み、人々が工夫を凝らして暑さと共生していた様子が残されています。
家の造りも風を通す工夫がされ、夏をしのぐ知恵が暮らしに根付いていました。
それでも、当時の平均気温は現代より数度低かったと言われています。
現在、私たちが体感しているこの暑さは、昔の夏とは別物と言ってよいのかもしれません。

 それでも旧居の庭には、季節の変わらぬリズムがしっかりと息づいています。
燃える朱色の炎をまとったような鬼百合(オニユリ)が、酷暑の陽射しをものともせず咲き誇る姿には、自然の逞しさを感じます。
その花は、庭の一角で、夏を真っ向から引き受けるかのようです。
一方、清楚に咲く桔梗(キキョウ)は、「永遠の愛」や「誠実」を象徴する花とされ、声を潜めたようなその佇まいが、見る者に涼感と安らぎを届けてくれます。

 夕方になると、空気の重さは一転します。
積乱雲が広がり、まるで天が裂けるような轟音とともに、滝のような雨が庭を叩きます。
雷鳴は東大寺の裏の山々にこだまし、夏の自然の気まぐれな存在感が胸に迫ります。

 来館者の「思い出ノート」には、「館内は風が通っていて不思議と涼しい」「蝉の声の中でも落ち着ける空間」といった言葉が並びます。
志賀直哉が自ら設計に関わったこの家は、建具の工夫や庭の構造によって、夏にも穏やかな風が通り抜けるよう計算されています。
まさに「暑さと共にある暮らし」の知恵が旧居には息づいています。
随筆『奈良』で志賀直哉は、自然の中に暮らすことの尊さについて綴っています。

夏の厳しさと、ひそやかな涼が隣り合うこの旧居には、自然と人とが共に暮らす知恵と静けさが宿っているように感じられます。

▲ページトップ

Copyright (C) Naragakuen. All right reserved.