◇2025-06-12 (木)
奈良学園セミナーハウス・志賀直哉旧居にて、特別講座白樺サロンの会「芥川龍之介「龍」――猿沢の池から昇る龍――」を開催しました。
講師は奈良女子大学准教授の吉川仁子先生です。
芥川龍之介は、20世紀初頭の日本文学を代表する作家の一人です。
東京帝国大学(現・東京大学)在学中に同人誌『新思潮』へ「羅生門」を発表し、華々しく文壇に登場しました。
さらに、第四次『新思潮』の創刊号に掲載された「鼻」によって夏目漱石から高く評価され、以後の作家人生を決定づける転機となったそうです。
芥川と志賀直哉は同時代を生きた作家であり、互いに影響を与え合った関係でもあります。
晩年、芥川は志賀について「もっとも純粋な作家」「何よりも先にこの人生を立派に生きている作家」と語り、東洋的伝統に根ざした志賀のリアリズムを高く評価していたようです。
一方で、志賀は芥川の死後、「仕舞で読者に背負い投げを喰らわすようなものがあった」と評し、その独特の結末表現に疑問を呈しています。
芥川は生涯を通じて長編には取り組まず、短編小説に専念しました。
それは、彼の体質や気質にもよるとされています。
彼の代表作には『今昔物語集』や『宇治拾遺物語』などの古典を素材とした「羅生門」「鼻」「地獄変」などがあり、そこに独自の解釈と近代的な心理描写を加えた作品群が光ります。
今回の講座では、奈良の猿沢池を舞台とする短編「龍」に焦点を当て、そのあらすじの紹介とともに、素材となった『宇治拾遺物語』との相違点について解説がありました。
原典では結局「龍」は現れませんが、芥川の作品では龍が池から天へと昇っていく幻想的な場面が描かれています。
これについて国文学者・長野甞一は、「着想の奇抜さ、文章の軽妙さ、短編としての見事な構成」として高く評価していることを紹介していただきました。
もしかすると、これこそが志賀の言う"背負い投げ"だったのかも知れません。