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◇2024-11-01 (金)

10月の志賀直哉旧居

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 「食欲の秋」という言葉は、江戸時代から使われているそうです。特に今年のような猛暑続きで食欲が落ちる時期が終わり、涼しい秋風が吹き始めると、よく食べるようになることから言われ続けている言葉です。また秋は新米だけではなく、さつまいもやキノコ、柿、栗など、四季の中で最も農作物の収穫が豊富なことから、「実りの秋」「収穫の秋」とも呼ばれています。


 志賀直哉も実りの食材を存分に楽しんだのでしょうか。『小僧の神様』の中で「貴族院議員Aが小僧の仙吉に鮨をおごってやる」というエピソードが登場しますが、他の作家に比べて食べ物が登場する作品は極めて少ないと言えます。特に高畑に住っている頃に記した「奈良」『志賀直哉全集 第六巻』の中で「食ひものはうまい物のない所だ。私が移つて来た五・六年前は牛肉だけは大変いいのがあると思つたが、近年段々悪くなり、最近、又少しよくなった。此所では菓子が比較的ましなのではないかと思ふ」と述べています。これが俗に「奈良にうまい物なし」と言われる根拠になっているようです。一説には宮城県で生まれた志賀直哉は、日常の食生活では味の濃い物に慣れていたことが考えられ、関西の薄味にはなかなか馴染まなかったからだと言われています。


 奈良の生活の中でも志賀直哉が好んで食していたものがあります。志賀直哉が奈良の高畑に住んでいた頃に、鯖寿司や鯉こく(鯉の味噌汁)を好んで食べていたと言われています。また、地元の食材を活かした精進料理や奈良の名物である茶粥も彼の好物だったようです。特にフグが好みであったそうです。ただ志賀直哉は、歯が悪かったため、フグ刺しではなく、フグチリを食べていたようです。


 旧居の食堂跡に入ると、志賀直哉の食へのこだわりを感じます。まず、当時では珍しい都市ガス調理器を採用していること、大量の食材が保存できる大型の氷式冷蔵庫が台所の壁に埋め込まれていること、台所からも隣の食堂からも開けられる合理的な戸棚が設置され、今で言うところのオープンキッチン構造になっていることなどが挙げられます。食堂は家族がリラックスして集う場所として設計されています。


 また志賀直哉は随筆「衣食住」の中で、「毎日三度、一生の事だから、少しでもうまくして、自分だけでなく、家の者までが喜ぶやうにしてやるのが本統だと思ふ」という一文は、彼の食に対する思いをよく表していると言えます。

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