◇2024-09-16 (月)
9月16日(月)、奈良学園セミナーハウス・志賀直哉旧居にて、特別講座白樺サロンの会《泉鏡花の戯曲『夜叉ヶ池』を読む》を開催しました。講師は帝塚山大学文学部教授の西尾元伸先生です。
まず、戯曲の特性についてお話しいただきました。戯曲は舞台上で役者が演じ展開していく作品のシナリオであり、ト書きと台詞で構成されています。それに対し、小説は仮想的な語り手が存在し、その語りを読者が読み進めることで物語が展開しますが、戯曲のト書きは舞台を見ている観客の観点で役者が演じる指示書きで、決して言葉として表には出ません。また、戯曲の場合、時間の流れに沿って幕や場が設定されます。それに対して小説の場合、時間や場所が前後したり突然入れ替わったり、作品の効果を考え、実際の流れとは異なる場合もあるようです。
講座では戯曲『夜叉ヶ池』を順に読み解いて行きました。この作品では、最初に登場する人物(晃と百合)の対話に、外から別の人物(学円)が登場し、異なった価値観が割り込むことで、どんどん物語が次に進んでいくという手法を使っているそうです。また、この作品の場合、舞台に登場する村人たちと妖怪たちが、同じ役者が演じるダブルキャストであり、現実世界と妖怪たちが集う別世界とが水面を隔てた別世界であることを舞台上で表現しているそうです。また、登場する龍神は、モノに縛られない自由を求めることが本来の生き方だそうです。これは舞台を通して、あるべき生き方を現実世界の人間へ示していると言えます。
まだまだ暑い日が続いていますが、それでも旧居の庭にはハギ(萩)の花が咲き始めています。セミナールームの窓際にも、ハギの切花が生けられています。ハギは古来より秋を彩る花として親しまれてきました。季節という舞台で言えば、ハギは晩夏の幕間の後に登場し、秋の場面を効果的に演出してくれるようです。