学校法人奈良学園

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◇2023-08-21 (月)

8月の志賀直哉旧居

  • 8月の志賀直哉旧居

 前回の白樺サロンの会において奈良女子大学准教授の吉川仁子先生の講座において、夏目漱石の『夢十夜』についてお話を伺いました。
 講座を終え、旧居の庭を散策していますと、裏庭の一番奥に純白のテッポウユリ(鉄砲百合)が密かに咲いていました。
 漱石の作品では、女性が「百年待てば再び会いに来る」と言い残し、主人公が待ち続けた末、真っ白な百合の花に化身して現れるという筋書きです(『夢十夜』の「第一夜」)。
主人公の男性は、出現したユリの花こそが待ち続けていた女性だと思い、口付けをするというロマンチックなお話を先生からお教えいただきました。
そのすぐ後に、裏庭で突然に出会ったユリには偶然の不思議さも伴い目を奪われました。


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 ユリと言えば、先月まで旧居の裏庭にはオニユリ(鬼百合)が、紫色の斑点のある非常にポジティブで強い印象の濃い橙色の花が、自己主張するかのように咲いていました。
同じユリでも、逆にテッポウユリは、まさに漱石が表現したように奥ゆかしく幽美な雰囲気を醸し出していました。
あたかも、この世とあの世の裂け目に咲く花のようです。
一部の文化や宗教においては、ユリは死や再生を象徴する花とされています。
花弁が下向きに咲くことから、死への尊重や死者への祈りを表現するのにユリが使われていたようです。この意味合いは漱石がエピソードの中で表現しようとしていたユリ像に近しいように思えます。
またタロットカードでは、ユリは創造性を象徴する図柄として描かれています。
他にもユリの象徴は、秘密を共有する深い友情と連帯、命を捧げるほどの愛情や情熱などのシンボルとして使われているようです。
旧居の庭を見渡すと、ユリと同じく、あの世とこの世を繋ぐ意味合いを持つ植木がいくつか見受けられました。

 ツバキ(椿)の実は、冬の厳しい死の世界に開花した後、現実世界としての夏に、あの世の美の記憶を実の中に閉じ込めていると言われています。
また茶の実も、この世と離れた場所へ誘うとされ、茶の葉と同じように煎じて意識を目覚めさせるための薬として使われていたこともあるそうです。


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 キキョウ(桔梗)の花の色や形は、無垢な純粋さや清らかさを象徴し、その美徳をあの世に届けると言われていることから、墓花としても使われます。

志賀直哉が愛した旧居の庭は、本当に物語に溢れています。


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