学校法人奈良学園

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◇2022-09-26 (月)

9月の志賀直哉旧居

  • 9月の志賀直哉旧居

 コースの定まらないいくつかの台風に翻弄され続けた今年の晩夏の空でしたが、ようやく秋らしい季節が訪れました。
 旧居の庭のトベラ(海桐)の木の下から秋空を眺めると、1匹のジョロウグモ(女郎蜘蛛)が、すぐ隣のカエデ(楓)の枝に繊細な糸を渡し、巣を紡いでいました。そう言えば、昨年も同じ頃、少しばかり秋の風を感じながら、この場所で蜘蛛が巣を紡ぐのを見上げたことを思い出します。賑やかだった蝉の合唱が消え、庭の高い所から銀色の繊細な光の網に揺れながら、旧居をじっと見守る「主」のようにも思えます。

 『白樺』に掲載された志賀直哉の作品で『荒絹(あらぎぬ)』という短編小説があります。山に住まう女神が阿陀仁という名の牧童の青年に恋をします。ところが彼には荒絹という名のとても美しい恋人がすでにいました。
荒絹は、2人のために織物を織り続けていたのですが、山の女神の嫉妬による呪いで彼女は病に取り憑かれ、織っていた織物も汚い色へと変わり、最後は荒絹も蜘蛛の姿に変えられてしまうという恐ろしい物語です。志賀直哉は蜘蛛を醜悪なものとして描いていますが、旧居に住まう蜘蛛は、なぜか優しさを感じます。


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 旧居の庭には、初秋の彩り、マンジュシャゲ(曼珠沙華)が咲いています。この時期になると、別名「彼岸花」と言われるように、まるでお彼岸のタイミングをお互いに申し合わせたかのように各所で一斉に開花します。また旧居を彩るもう一つの花、フヨウ(扶養)も、薄く繊細なピンクの花弁を楽しませてくれています。旧居の庭の奥まったところには赤紫のホトトギス(杜鵑草)が、かわいい表情を見せてくれています。ユリ科の花はオニユリ(鬼百合)から始まり、やがてシラユリ(白百合)に置き換わり、そして最後はホトトギスが秋へと季節のバトンを受け継いでくれているようです。

 渋柿の実も僅かに色づき始め、10月に入れば、いよいよ急に秋が深まる気配です。秋から冬の旧居の庭の移り変わりも、訪れる方々の目を楽しませてくれるに違いありません。

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