◇2021-11-20 (土)
11月20日(土)、奈良学園セミナーハウス・志賀直哉旧居にて、奈良学園公開文化講座第49回《正倉院文書と古代の言葉》を開催しました。講師は奈良学園大学人間教育学部教授・同大学図書館長の桑原祐子先生です。
今年の正倉院展には、経師(経を写す仕事をする人)が、上司に提出した休暇願が展示されていて話題を集めていましたが、奈良時代には経典を書き写すためにたくさんの人々が写経所に集められ、現在の公務員のように仕事をしていました。
今回、桑原先生は正倉院文書の中から、坂合部濱足の休暇届けをとりあげました。赤痢のため、三日間の休暇を願い出る内容の文書ですが、はじめは二日と書いた後に、三日に書き直している跡が見られたり、結局、三日で治らず、休暇の延長を願い出る文書には、「治りましたら昼夜を問わず出勤いたします。嘘をついてくずくずと家にいたりはしません。」と、当時、嘘をついて休暇を延長したような人物がいたのだろうかと思わせる文言も書かれています。
このような文書が残されている背景として、当時、紙は貴重で再利用されていただろうと思われ、正倉院正倉の中倉には、再利用を待つ文書が近年まで納められたままになっていたのではないかと推察されるようです。
他の文書として、今回の正倉院展には光明皇后が東大寺盧舎那仏に献納した、中国の書簡模範文例集である「杜家立成」も展示されていましたが、古代の東のまもりである陸奥国府多賀城跡近くの古代遺跡からも、杜家立成が出土しており、貴族だけではなく地方の役人も杜家立成を学んでいたのではないかと考えられるとのことでした。
正倉院展ではきらびやかな宝物に目が行きがちですが、正倉院に納められているこのような文書により、貴族ではない下級官人たちの日常の様子を感じ、天平人に思いを馳せる秋の一日となりました。