学校法人奈良学園

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◇2021-10-21 (木)

志賀直哉旧居特別講座 白樺サロンの会第5回《文学・映画に見るパンデミック――カミュの『ペスト』を中心に》を開催しました。

・2021年9月20日(月)10:30~12:00
志賀直哉旧居特別講座 白樺サロンの会 

第5回《文学・映画に見るパンデミック――カミュの『ペスト』を中心に》

講師:東浦弘樹 関西学院大学教授
概要:昨年来、新型コロナウイルスの感染拡大によりパンデミックを描いた文学作品や映画が注目を浴びている。本講座ではアルベール・カミュの『ペスト』を中心に、ボッカチオの『デカメロン』、ダニエル・デフォーの『疫病流行記』、エドガー・アラン・ポーの『赤死病の仮面』、カレル・チャペックの『白い病』などの文学作品、『ブレイクアウト』、『コンテイジョン』、『アンドロメダ...』などの映画、さらには『バイオハザード』、『ブレインデッド』などゾンビ映画にも言及しながら、文学・映画がどのように感染症を描いてきたかを考えたい。

1. カミュに関する誤った情報

「カミュはアルジェリア独立を支援したためアルジェリアから追放され、1940年にフランス本国へ渡った」
「カミュは第二次大戦中、平和運動に従事した/反戦記事を書いた」
「『ペスト』で描かれている状況は、コロナ渦で我々が直面している状況と驚くほど似ている」(?)


2. 伝染病を扱った文学作品

ペスト
 ボッカチオ、『デカメロン』(イタリア、1351)
 ダニエル・デフォー、『疫病流行記』※1 (イギリス、1722)
 アルベール・カミュ、『ペスト』(フランス、1947)
 ※1原題はThe Journal of the Plague Year。邦題としては他に『ペスト』、『ペストの記憶』、『ロンドン・ペストの恐怖』などがある。

架空の伝染病
 エドガー・アラン・ポー、『赤死病の仮面』(アメリカ、1842)
 カレル・チャペック、『白い病』(チェコ、1937)

コレラ
 トーマス・マン、『ヴェニスに死す』(ドイツ、1912)

結核
 アレクサンドル・デュマ・フィス、『椿姫』(1848)
 トーマス・マン、『魔の山』(ドイツ、1924)
 堀辰雄、『風立ちぬ』(日本、1938)

天然痘
 ラクロ、『危険な関係』(フランス、1782)
 エミール・ゾラ、『ナナ』(フランス、1879)

エイズ
 エルヴェ・ギベール、『ぼくの命を救ってくれなかった友へ』(フランス、1990)

ハンセン病
 ポール・クローデル、『マリアへのお告げ』(フランス、1912)
 松本清張、『砂の器』(日本、1960)
 遠藤周作、『わたしが・捨てた・女』(日本、1960)
 三島由紀夫、『癩王のテラス』(日本、1969)
 Cf. 『もののけ姫』(宮崎駿監督、1997)

思想=伝染病
 ドストエフスキー、『罪と罰』(ロシア、1866)
 イヨネスコ、『犀』(フランス、1960)


3. 伝染病を扱った映画
『アンドロメダ...‥』(ロバート・ワイズ監督、1971)
『アウトブレイク』(ウォルフガング・ベーターゼン監督、ダスティン・ホフマン主演、1995)
『コンテイジョン』(スティーヴン・ソダーバーグ監督、マリオン・コティヤール、マット・デイモン、ローレンス・フィッシュバーン、ケイト・ウインスレット出演、2011)

ゾンビ映画の発展形
『ブレイン・デッド』(ピーター・ジャクソン監督、1992)
『バイオ・ハザード』(ポール・W・S・アンダーソン監督、ミラ・ジョボヴィッチ主演、1992)
『アイ・アム・レジェンド』(フランシス・ローレンス監督、ウィル・スミス主演、2007)など


4. カミュの『ペスト』
『ペスト』の特徴
 194×年にフランス領アルジェリア第二の街オランを襲ったペストの物語(4月16日から翌年2月まで)

群像劇的小説:ペストに巻き込まれた人々を描く小説
 匿名の語り手によって書かれたペストの記録という形式:語り手が誰かは物語の最後に明かされる

ナチスドイツによるフランス占領とそれに対するレジスタンスの寓話
 『ペスト』に対する批判――「人災」と「天災」の混同、歴史的因果性の欠如
 『ペスト』の射程――①ナチスドイツに対する戦い、②あらゆる形の独裁・全体主義に対する戦い、③天災に対する戦い(←ドキュメンタリー映画『カミュと生きる』に出演したドイツ人人道活動家の言葉)

『ペスト』の登場人物
リウー:オラン在住の医師。タルーの提案に従い保健隊を組織する。妻は街が閉鎖される直前に遠くの療養所へ出発。
タルー:オラン滞在中にペストに巻き込まれる旅行者。保健隊を組織することをリウーに提案する。
ランベール:オランに取材に来たためにペストに巻き込まれる新聞記者。パリで待つ恋人の元に戻るため非合法の方法で街を出ようとするが、最終的に街に残りペストと戦うことを決意する。
グラン:保健隊に参加する市役所の非常勤職員。言葉を見つけられないために損ばかりしている。男を作って出て行った妻ジャンヌに釈明の手紙を書きたいと思っているが書けずにいる。夜、こっそり小説を書いている。
コタール:グランと同じアパートに住む謎の男。若い頃に罪を犯し警察に追われていると言う。物語冒頭で自殺を図るが、ペストの感染が拡大し街が閉鎖されると元気になっていく。

パヌルー神父:カトリックの神父。当初ペストは驕り高ぶった人間に神が遣わした罰であると説教するが、少年の死を看取った後、信仰の揺らぎを経験する。
リウーの母親:リウーの妻が療養所に行っている間、家の切り盛りをするために息子の元にやってくる。リウーとタルーの精神的支えとなる人物。

物語の概要
 鼠の死骸→リウーの妻の出発→コタールの自殺未遂→リウーの住むアパートの管理人の死→感染の拡大→街の閉鎖→保健隊の結成→グランの参加→パヌルー神父の1回目の説教→ランベールの変心→少年の死→パヌルー神父の2回目の説教→パヌルー神父の死→タルーの告白→タルーとリウーの夜の海水浴→グランの発病と回復→ペストの衰退→タルーの発病......

コタールとランベール
 コタールはコラボ(対独協力者)か?
 ランベールは闘争の必要性に目覚めるレジスタンスの闘士か?

ヒロイズムの否定、グランという人物
 一人暮らしの中年男。市役所の非常勤職員。
 言葉を見つけられない人間で、そのため損ばかりしている。
 夜、自宅でこっそり小説を書いている。
 若くしてジャニーヌという女性と結婚したが、言葉が足りず若い妻を支えることができなかったために、ジャニーヌは男を作って出て行ってしまった。ジャニーヌに釈明の手紙を書きたいと願っている。
 善人だが、それだけに滑稽な男、ある意味お気楽な男だが、語り手は「この物語に英雄はいない」と言いながら、「しかしもしどうしても英雄が必要だとすれば、それはグランである」と述べている。それはなぜか?

『ペスト』と新型コロナウイルス
 『ペスト』と新型コロナウイルスにどんな共通点があるか?
 『ペスト』にどんな生きる指針があるか?
 なぜ多くの人々が『ペスト』に注目するのか?
 我々は『ペスト』に何を読み、そこから何を得るのか?


東浦先生論文⇒「『ペスト』再読」、『りずむ 第六号--文学の東西、文明としての戦後』所収、平成29年3月、pp.20-30(白樺サロンの会、ホームページリポジトリ掲載)



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講師紹介
東浦弘樹(とううら・ひろき)
 関西学院大学文学部教授。フランス文学者。
 1959年兵庫県生まれ。京都大学文学部仏文科卒業。関西学院大学大学院修士課程修了。同博士課程在学中にフランス政府給費留学生として渡仏。アミアンのピカルディー大学博士課程に3年半在籍し、国際カミュ学会の創設者であり会長でもあったジャクリーヌ・レヴィ=ヴァランシ教授に師事。博士論文La Quête et les expressions du bonheur dans l'œuvre d'Albert Camus(アルベール・カミュの作品における幸福の追求とその表現)を提出し博士号を得る。

 著書にLa Quête et les expressions du bonheur dans l'œuvre d'Albert Camus (Eurédit, 2004)、『晴れた日には『異邦人』を読もう――アルベール・カミュと「やさしい無関心」』(世界思想社、2010)、『フランス恋愛文学をたのしむ――その誕生から現在まで』(世界思想社、2012)、翻訳書にパトリック・ラペイル『人生は短く、欲望は果てなし』(作品社、2021、オリヴィエ・ビルマンと共訳)、TERADA Torahiko, L'Esprit du haiku, suivi de Retour sur les années avec le maître Sôseki(寺田寅彦の「俳句の精神」、「漱石先生との思い出」のフランス語訳、Philippe Picquier, 2016、オリヴィエ・ビルマンと共訳)がある。

 演劇ユニット・チーム銀河代表。劇作家、役者。
 京都大学在学中、京大西部講堂にあった学生劇団・風波に所属。役者として活動。
2012年に思うところあって兵庫県立ピッコロ演劇学校に入学、3年間在籍。
 2014年に演劇ユニット・チーム銀河を立ち上げ、1年に一本のペースで戯曲を執筆、上演。自らも役者として出演。
 2017年からはM.T.C. Projectの増田雄の提唱する「街ゲキ」に参加し、自作の芝居を毎月1回1年間ロングラン公演。
 2020年2月にはパリ2区、オペラ座近くのWorkshop ISSEで『オズの部屋探し』をフランス語字幕付きで4日間連続公演。

演劇ユニット・チーム銀河
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