◇2021-08-30 (月)
高畑町、ささやきの小径を辿って志賀直哉旧居に向かうと、先日まで騒がしく奏でていたアブラゼミやクマゼミの鳴き声が消え、時折ツクツクボウシが鳴いていることに気づきます。
まだ厳しい暑さが続いていますが、歩む足音が聞こえるほどの静けさに、秋の到来を予感できます。
長く続いた今年の雨天の日々をようやく抜けて、志賀直哉旧居の庭は今、晩夏特有の暑さが訪れています。
深い緑に彩られた植木も、やがて来る秋風が吹く季節をじっと待っているかのようです。
木々の合間をよく観察すると、ヤブラン(藪蘭)やシュメイギク(朱明菊)、ホトトギス(杜鵑)などが、蕾を付けているのが見受けられます。
やがて風向きが変わり始めた頃には、秋の風景を楽しませるたくさんの花を咲かせてくれることでしょう。
また、春先まで長く花を付けていた椿の木の枝には、まん丸でまだまだ緑色の実が実っていることに気づきます。9月を過ぎると、この実も赤く色づきます。
色づく実と言えば、毎年、庭でたわわに実る柿の木にも、すでに黄緑色の実が実っています。例年、志賀直哉旧居では、このカキを晩秋に収穫し、紐で繋いで軒に干す「吊るし柿」が作られます。
このように四季の変化を存分に楽しめる日本の庭は、人の心の移ろいにも大きな影響を与えたと思われます。
志賀直哉も、庭に面した縁側に座し、季節の移ろいを愛でながら、その情緒を小説の世界に込めていったに違いありません。