◇2021-03-29 (月)
旧居の庭にも、やっとあたたかい風がそよ吹く春らしい季節となりました。
未だにツツジやサツキの蕾は膨らんだまま開花には至っていませんが、まもなく本格的に花が萌える予感を感じます。
その中で一足早く、バイモユリ(貝母百合)がムクロジ(無患子)の木の根元で慎ましやかな花を咲かせています。この小さな花の花言葉の一つには「謙虚な心」とあるように、下を向いて自分の内面を見続ける様子がイメージできます。
まるで心の深いところから多くの作品を生み出した志賀直哉の生き様が、バイモユリに転写されているかのようです。
現在、旧居の茶室の床の間には、三輪のバイモユリが生けられています。まさに茶の客人が自分自身を見つめる席に相応しいお花だと言えます。
蓮池のある中庭に入ると、足元の苔の上に寒椿の花綸が落ちています。
それを見ると、寒い季節はどんどん遠ざかり、駆け足で次の季節が到来することを感じます。
梅の花が散り、桜がようやく一輪、また一輪と咲き始める中、旧居玄関で顔を上げると、ハナモモ(花桃)が、開花の盛りだということに気づきます。
やさしいピンク色の八重花が、賑やかに旧居への来訪者を迎え入れているようです。
花盛りと言えば、先月まで疎らな開花だった白と薄ピンクのアセビ(馬酔木)が、枝からこぼれ落ちるほどの勢いで咲いています。
万葉集にも登場する古い花ですが、馬がこの花を食べると、まるで酔ったようにふらつくことから、この名前が付けられたと言われています。
かつて馬酔木を生垣にして植えたのは、邸内に害獣の侵入を防ぐという役目や、害虫を駆除する目的があったようですが、現在、奈良公園では鹿がこれを食べないことから、多く植えられています。
さて、まもなく本格的な春が訪れ、やがて雨の季節も、さほど遠くないうちにやってくることでしょう。
旧居の庭を巡る楽しさは、季節の移ろいのを楽しむことになるようです。