◇2020-12-23 (水)
奈良学園セミナーハウス・志賀直哉旧居において、12月21日(月)特別講座「白樺サロンの会」を開催しました。
「志賀直哉『網走まで』を読む」をテーマに、奈良女子大学研究院人文科学系言語文化学領域准教授の吉川仁子先生を講師にお迎えしました。
冒頭は、志賀直哉自身の生い立ちと経歴などについての話でした。
子どもの頃は、祖母に育てられ、早くに実母と死別。
わずか11歳年上の義母がやってきたことなどが、志賀直哉の小説に大きく影響しているのでは、と言われているそうです。
志賀直哉は比較的長く休筆期間を設け、それが明けた後に勢力的に小説執筆活動をするといったタイプの作家だったようです。
一般に『網走まで』は、志賀直哉の処女作と言われていますが、世間に発表する以前の作品を含めると、『或る朝』や学生時代の高等科の頃に執筆した『菜の花と小娘』なども、「別の意味で処女作と云ってもいいかも知れない」と彼自身が述べています。
『網走まで』は、私たちが出版物として読むバージョン以前に、草稿版や初筆版といういくつかのバージョンが存在しており、
草稿版から初筆版に至るまでに志賀直哉自身の手で、いくつかの削除や表現を改変した部分があるようです。
これについては多くの研究者も着目しているようで、その中から小林幸夫氏や赤羽学氏の評論の紹介がありました。
『網走まで』に登場する鉄道や人物の時代考証についての話もありました。
当時の汽車の発車時間や到着時間、客席の様子。
網走という場所、さらには都会と田舎に住む人の風習や生活様式などについて、時刻表や地図などを示しながらの話がありました。
旧居の庭には、コウヨウザン(広葉杉)が、すぐ隣のムクロジ(無患子)と寄り添うようにして立っています。
コウヨウザンは外観がモミの木に似ていることから、日本ではかつてクリスマスツリーにも使われていたそうです。
高々と天に向かい伸びるコウヨウザンの姿は、来る年が光り輝かんことを祈っているように感じられました。