◇2019-08-01 (木)
7月29日(月)、セミナーハウス・志賀直哉旧居にて「近代文学講座 ―文学表現の諸相― (前期4回目)」を開催しました。講師は京大以文会会員の植村正純先生です。
前回に引き続き、今回も藤原定家の『明月記』についてお話をいただきました。
まず、『明月記』が書かれた時代背景をさらに詳しく確認しました。上皇による院政、福原への遷都から平家の衰退、安徳天皇の入水による御崩御、それと共に源氏勢力の台頭。やがて鎌倉時代へと移りゆく動乱の時代です。
その中で、定家は「歌人」であることを自らの人生の支えとし、二流貴族であることによるコンプレックス、いわゆる影の自分を照らす光として生きていたようです。
定家は、いわゆる当時の文学青年と言える存在だったと教えていただきました。
また、堀田善衞の『定家明月記私抄』から、末法の世の、今日の都の荒れ果てた状況を、同じ時代に生きた鴨長明の『方丈記』における記述内容との比較が紹介されました。
さらに、平家の滅亡を通して、滅びゆく者や死の美学という観点で、葉室麟の随筆集『柚子は九年で』における三島由紀夫事件を通して考察した平家物語の刹那な美学的要素を読み解いた文章が紹介されました。
加えて、立原正秋の『冬の花』の中から、『明月記』に書かれたセンテンスを取り上げ、世の無常といつまでも変わらぬものについての記述が紹介されました。
一方、定家が心に秘め続けた式子内親王への思いと、式子内親王の暮石に絡むテイカカズラ(定家葛)の伝説などについてもお話をいただきました。
最後に、定家を題材とした能『定家』についてのお話をしていただきました。
次回からはショーロホフ作の『人間の運命』について講義していただきます。先立って、小説の背景となったロシアのドン河や周辺の街との位置的関係について予習しました。
灼熱の太陽が照りつける中、志賀直哉旧居の中庭の片隅に、崑崙アサガオが植わっています。中国の崑崙山脈原産のアサガオです。最近の猛暑で温度が高すぎると蕾のまま開花しないようです。この日も多くの花弁は丸まってしまっていました。ただ、葉の影に守られた数個の小さめの花弁が、元気に開き、風に揺れる様は、定家の秘めた恋心を思わせるように、世の無常を語りかけていました。