◇2019-02-27 (水)
2月25日(月)セミナーハウス・志賀直哉旧居にて「近代文学講座―文学表現の諸相―(後期4回目)」を開催しました。
講師は京大以文会会員の植村正純先生です。当講座は今回で100回目を迎えました。
まず、前回の最後に紹介された水上勉の『壺阪幻想』の最終場面を読み、その中で綴られている風景や感情の巧妙な記述表現の特性について味わいました。
また同じく水上勉の『等持院の椿』では、等持院に咲く樹齢400年の椿の巨木を通して自分自身が抱く記憶や人生に対する思いを、読み解きながら検証しました。
続いて、谷崎潤一郎の『母を恋ふる記』が紹介されました。
この小説は、母が亡くなった日について描きながら、今回の講座のテーマでもある母と自分自身との関係性や自分自身の人生への影響について綴られています。
またそれに関連して谷崎潤一郎が興味を持った堀辰雄の小説『風立ちぬ』の冒頭に書かれているポール・ヴァレリーの詩句からの引用で、「風立ちぬ、いざ生きめやも」が、生きることへの積極的な姿勢を表現していることについてお話しをいただきました。
さらに、額田王(ぬかたのおおきみ)と周辺の人間関係などを例に母に対する思いについてのお話がありました。
旧居の中庭では白梅がまだ寒い初春の陽の光に照らされ、見る人の心を癒しています。
菅原道真の有名な「東風吹かば 匂いおこせよ 梅の花 主なしとて 春な忘れそ」が、遠く故郷から離れた太宰府の地で書かれた短歌ですが、今回のテーマでもある、作家自身の心の精神的原点を思い描き、その香りを感じる様に通じるものがあります。
次回の講座は3月25日(月)に開催予定です。
次回は、谷崎潤一郎の小説『吉野葛』へとお話しを移します。吉野を中心とした地図を見ながら、事前に小説の舞台について説明をしていただきました。