◇2018-08-27 (月)
8月27日(月)、セミナーハウス・志賀直哉旧居にて、「近代文学講座―文学表現の諸相―(前期5回目)を、植村正純先生(京大以文会会員)を講師に開講しました。
今回は志賀直哉が奈良のこの邸宅で執筆を進めた『暗夜行路』を読み解いていく最終回です。物語の前篇後篇を通して、全体像をおさらいすると共に、主人公の心情の変化を振り返りました。
また、『暗夜行路』が描かれた時代背景についての考察を行いました。
19世紀から20世紀に移り変わる、世紀末の時代、ヨーロッパでも社会不安や退廃的な空気が支配する中、「自分たちは何のため生きているのだろう」という疑問が顕在化し、実存主義的な文学がもてはやされた時代です。
日本文学においても、そうした時代背景の影響は顕著で、そうした中で『暗夜行路』が描かれたということを学びました。
また、『暗夜行路』について志賀直哉自身が「事件の外的な発展よりも、事件によって動く主人公の気持ちの発展・起伏を描く」と書き綴っていることが紹介されました。
また、中村光夫氏が「(表現する自己)と(表現される自己)の同一性を簡潔な文体で描く心境小説」であると評し、さらに柄谷行人氏は「主人公の気分が書かれているのではなく、気分が主人公である」と、志賀直哉の小説の特性を端的な表現で評したことが紹介されました。
志賀直哉が作家人生の中で長期にわたって執筆し続けた『暗夜行路』には、彼自身の人生の中における心の変化、気分の変化が象徴的に描かれている作品であると言えます。
旧居の庭には、葉に埋もれ気づかれにくい地味な花、サネカズラが咲いています。この花は「名にし負はば 逢坂山の さねかづら 人に知られで くるよしもがな」(三条右大臣)と、古くは百人一首にも歌われています。あなたに逢いたいという気持ちを妄想に近い言葉で表わされた歌で、気分・気持ちの作家とも言われた志賀直哉にふさわしい花とも言えます。
植村正純先生の「近代文学講座 《文学表現の諸相》」は、いよいよ10月29日(月)より、後期がスタートします。