◇2016-12-19 (月)
学園のセミナーハウス・志賀直哉旧居において、特別講座「白樺サロン」の第8回を開催しました。今回のテーマは、《夏目漱石『こゝろ』--「先生」の遺書が伝えるもの--》。講師は、奈良女子大学研究院人文科学系の准教授、吉川仁子先生です。
本年2016年は、夏目漱石の没後100年目ということで、多くのメディアで漱石が取り上げられました。漱石がなくなったのは、100年前の12月9日。「命日に近いこの日に、漱石が高く評価した作家である志賀直哉旧居で、講義が行えることはたいへんうれしいことです」との先生の言葉で講義は始まりました。
取り上げられたのは、高校の教科書にも長年に渡って取り上げられている『こゝろ』。先生は、作家自身が装丁を手がけたという本作の復刻版を手に、その概要を説明されました。馴染み深い作品ですが、もともとは『心』「先生の遺書」という短編だったこと、作家自身も長編になることを予測していなかったことなどが紹介されると、「知らなかった!」というように、メモを取る方の姿も見られました。
『こゝろ』という作品の解釈はたいへん多くあります。講義では、作品を作家の考えを投影したものとして見るのではなく、読者の側に引き寄せて、文章そのものから解釈をする「テクスト論」が紐解かれ、さまざまな文学者の解釈が紹介されました。
文豪とよばれる漱石ですから、その作品を読むとき、私たちは通説となった解釈にむかって読み進めてしまいがちです。けれど、文章そのものに目を向け、言葉の端々にまで注目することで、作品に対してまったく違った印象を抱くことがある、ということを本講義で学びました。本来、小説とは読み手が自由に感じて楽しむもの。小説の楽しみ方がひとつ増えたような気がします。
クリスマスをひかえ、旧居の玄関では、クリスマスカラーの南天が訪れる人を出迎えていました。