◇2017-01-23 (月)
本学園のセミナーハウス・志賀直哉旧居では、「近代文学講座」を連続講座として開催しています。講師は、京都大学以文会会員・植村正純先生。さまざまな作品を題材に近代文学における「文学表現の諸相」を学んでいます。
後期第3回目となる今回は、海外の作品に目を向けました。題材としたのは、ポール・ギャリコの『雪のひとひら』。子ども向けの童話のようなやさしい言葉で語られるとても短い物語ですが、そのなかには不変の真理、人生哲学がさりげなく盛り込まれています。
講座では、駆け足で物語のアウトラインを追いました。『雪のひとひら』は、主人公・雪のひとひらの誕生から天に召されるまでの、いわば名もない女性の一生を描いた作品です。受講生の多くは女性。皆さんは大きく頷かれるなど、物語のここかしこに共感されているようでした。作品のなかで繰り返し問われるのは「私たちは何のためにここにいるのか、そしてどこへ行くのか」。同様に、画家・ゴーギャンや夏目漱石もアイデンティティのあり方を問うています。先生が画家や作家の作品や言葉を引きながら、そのことを述べられると、受講生の皆さんは文学の奥深さを今一度感じておられるようでした。
この作品の魅力は、キラキラと輝くような文章。旧居の池の水が凍るような寒い朝でしたが、心のなかは春の日差しが差し込んだような感覚になりました。旧居の庭には、山茶花が鮮やかな赤い花を咲かせていました。