◇2015-03-02 (月)
本学園のセミナーハウス・志賀直哉旧居で近代文学後期講座「文学表現の諸相<詩歌と小説の相関>」(全5回)の第5回「井上靖の詩と小説」を開催しました。講師は京都大学以文会会員の植村正純先生です。
本日は、今まで学んできた「文学表現の諸相」についてのまとめと、井上靖を例に挙げて作家の創作のプロセスについての講義でした。
「文学表現」はモチーフとしての対象や素材があり、それを文学というジャンルの中で言語表現・文字形象というものに姿を変えていくものですが、「そこには<認知>、即ち何を<視る>のか、何に<気付く>かということがまずあるのです」と先生。
「その作家をして何がペンを走らせるのか。それには、天性もありますが、多くは<きっかけ(契機)>がその人を突き動かすのです」と話されました。そして井上靖の『わが一期一会』(毎日新聞社 昭和50年刊)の『石英の音』というくだりから、彼の中学時代の友人たちの詩や短歌、そして室生犀星の詩との出会いが、作家・井上靖を生んだことを読み取りました。
続いて井上靖の散文詩『漆胡樽―正倉院展御物展を観て―』(昭和22年5月)を読みました。その1年後に小説『漆胡樽』を出しているのですが、それは彼が小説家として世に出るきっかけになった小説です。
また彼が芥川賞を受賞した小説『猟銃』について、それが生まれるに至った過程を、散文詩『猟銃』(昭和23年10月)や福田宏年の作品解説(昭和49年)を、説明を受けながら読みました。先生は、「人に読ませるために文学としての形象化がなされ、時にフィクションも入ります」として、『猟銃』のストーリーをかいつまんで話されました。
本講座は次年度も開かれ、先生は引き続き「井上靖の文学表現」についての考察を進められる予定です。
本日は、時折隣のサンルームを通して陽光が降り注ぎ、庭では梅の花もほころんで春間近と感じさせる日でした。