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◇2013-09-27 (金)

平成25年度 秋期特別講座
「志賀直哉・美術・宇宙の神秘」(全7回)の第3回を開催

  • 平成25年度 秋期特別講座<br>「志賀直哉・美術・宇宙の神秘」(全7回)の第3回を開催
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本学園のセミナーハウスである志賀直哉旧居で秋期特別講座「志賀直哉・美術・宇宙の神秘」第3回を開催しました。この講座は、この地の芸術や文学に残る貴重な遺産を継承するために、6年前に発会した"白樺サロンの会"有志を講師に開かれるものです。第3回目の本日は、奈良女子大学専任講師の吉川仁子先生に「夏目漱石『行人』について 漱石と志賀との関わりにふれながら」と題し講義を行っていただきました。

吉川先生は、志賀直哉の才能を高く評価した夏目漱石の『行人』を講義くださいました。『行人』は、『彼岸過迄』『こころ』と共に漱石の後期三部作ですが、まとまりがないと言われたり、ある章だけが重視されて読まれたりしており、扱いにくい作品とのことです。そのわけを、作品の成立と漱石の執筆背景とを照らし合わせて検証するという方法をとられました。

『行人』は、朝日新聞に連載された「友達」「兄」「帰つてから」「塵労」の4章からなる長編ですが、「帰つてから」と「塵労」の間に5か月あまりもの休載期間が挟まれています。当初は「帰つてから」までで完結予定だったと推察されますが、病に倒れて休載、その後書き継がれた「塵労」が全編の1/3を占めているというものです。

先生は『行人』の4つの章のつながりと、「友達」「塵労」の位置づけを問題視され、休載前後の作品の分裂を指摘されました。執筆背景として休載中の書簡に書かれる作者の心境を読み取りました。朝日新聞社の担当者に宛てた手紙は、連載小説について書きあぐねている様子や、もう自分は完結するつもりで続く執筆者(先日話題になった『銀の匙』の中勘助)を推してしているくだりがあるなど、実に興味深いものでした。

中勘助に宛てた手紙では、「作品は生き物のように動く。なかなか終わりそうになく済まない」とあります。

続いて先生は、『行人』を「友達」から「塵労」まで順に、登場人物の関係図を板書しながら、そのあらすじとともに精神面の考察を加えていかれました。女一人に男二人の友人関係、夫婦問題、兄弟の確執、そして自己の孤独と苦悩などがキーワードに挙がりました。

先生は「作者の精神状態が<塵労>に反映され、それは観念的・抽象的なもの。3章までに終わるはずだった『行人』と4章とでは目指す結末が違っていたと考えられます。作品の裂け目と見えるものは、一郎・二郎兄弟互いの苦悩を分かり合えぬ人間の孤独を意味するものと捉えられ、知識人ゆえの苦悩ですね」と話されました。また、男の論理の中で生身を切り捨てられる女性のジェンダー性も指摘されました。

直哉と関わる部分については、直哉の『佐々木の場合』が、漱石の『行人』の2章「帰つてから」に出てくる<女景清の逸話>と、<自我を持った人間の安心>を描いた点で似ていることを挙げ、「ぜひ、読んでみてください」と結ばれました。ちなみに、『佐々木の場合』は、直哉が漱石から依頼された朝日新聞の連載を断わり、苦にしているうち漱石が亡くなったのでそのデディケートとして不義理を詫びたものです。

講義終了後、受講生から「執筆背景を知って読むと、より深い読みができます。いい内容の講義でした」「この作品は読んだことがなく、早速図書館に寄って帰ります。楽しみができました」などの感想が聞かれました。日差しにも秋の気配が感じられ始めたこのごろ、サンルームの「見学所感」ノートにメッセージを残していく見学者も多く見られます。

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