学校法人奈良学園

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◇2012-12-03 (月)

後期近代文学講座第4回を開催

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本学園のセミナーハウス・志賀直哉旧居で後期近代文学講座「文学表現の諸相」(全8回)の第4回を開催しました。講師は京都大学以文会評議員で文学講師の植村正純先生です。

本日は、ヴェルコールの『海の沈黙』の続きからです。先生は「今日は『星への歩み』も読み終えるため、かなり飛ばしますよ」「作品というものは人それぞれに読めばいいのですが、誰が読んでもこれだけは当然という共通理解部分は押さえておきましょう」とおっしゃって講義に入られました。

「1940年前後という世界が一番揺れ動いた時期に足跡を残した代表的作品ですが、単なる反戦小説としてではなく、今なお普遍の魅力を持っています。そのエキスにあたるものを探っていきましょう」と、表現構造・表現意図・語彙(い)や題名の意味を考えるという二つの指針を示されました。

『海の沈黙』は、「私」という語り手(視点人物)が、ドイツ人青年将校の<独白>と、<無言>でいる「私」の姪の表情や仕草による心情の変化を、私の目で追いかけ実況中継していくという抽象劇の構造になっています。またストーリーは、漸進的積み上げの形になっていますが、「少しずつ積み上げられていくものは何かを読み取りましょう」と先生。

そして大きなキーワード、「お休み:Je vous souhaite une bonne nuit」、最後に将校と姪が発する「ご機嫌よう:Adieu」、頻出する「沈黙」のうち最終に出てくる「沈黙」の言わんとしている内容をみんなで考えました。「さようなら」ではなく「ご機嫌よう」の訳であることについて受講生から質問があり、先生が説明してくださいました。

先生のリードで要所を追いながら、将校がフランスの高い文化や国柄・人柄に対し大きく評価(善意・愛)したのに、結果的にはナチスの命に従い戦場に赴いていくという(抑制・否定)、"裏切られる善意や愛に対する悲しみと憤り"が表出している作品だということを読み取りました。

休憩を挟んで『星への歩み』に入りました。この作品は回想物語の形をとっており、冒頭でテーマが語られています。まずタイトルについて先生は、「<星>は何を意味するのでしょうか」と投げかけられ、主人公トーマ・ミュリッツには文字通り、憧れの国フランス(他の星)を目指す歩みと、自分はユダヤ人だという星のマークに向かっての歩みという二つの歩みがあることを、主だった表現から読み取っていきました。

作品は、ユダヤ系フランス人人質の銃殺、ナチの手先となり果てたペタン政府の憲兵の惨めさを描いたものでした。主人公は二つの歩みを通して、人間の愛に対する裏切りへの哀しい思いや苦悩を、語り手の<私>に寄り添う形で読者はぐいぐい引き込まれ読まされていく作品となっています。

精神的に深い読み取りが必要とされる内容の講義で、終了と同時に大きな拍手が先生に送られました。受講生の方々からは「先生にこんなに深く厚みのある解説をしていただいたからこそ、読み取れました」との声が聞かれました。旧居の庭では剪定作業が行われており、冬迎えの準備へと入っていきます。

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