学校法人奈良学園

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◇2012-09-17 (月)

秋期特別講座第2回を開催

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本学園のセミナーハウスである志賀直哉旧居で秋期特別講座(全6回)を開催しました。この講座は、この地の芸術や文学に残る貴重な遺産を継承するために、5年前に発会した"白樺サロンの会"有志を講師にお招きして開かれるものです。

第2回目の本日は、奈良女子大学名誉教授の弦巻克二先生に「志賀直哉の文学」と題し講義を行っていただきました。

先生は奈良女子大学を退官後、禅宗の研究にも力を入れておられ、花園大学で聴講生を経て同大学の非常勤講師を勤めておられます。そのご専門からの考察で「直哉作品の宗教性」について話され、直哉の宗教観(特に禅宗)が作品に表出している『城崎にて』や『和解』(共に大正6年)をどう読めばいいかを表記例を挙げて教示くださいました。

直哉は青年の頃(17歳~25歳)内村鑑三に師事しキリスト教の影響も受けていますが、尊敬する祖父が仏教、特に晩年は曹洞宗に傾倒したことを著書に記しています。また叔父・直方も禅宗に凝ったことなど、禅に関連した記述が『暗夜行路』や『和解』の中にあります。

『和解』は、直哉が18歳から父の直温と衝突、確執を抱き、34歳(大正6年)でやっと和解したその年の作品です。叔父の手紙にあった『碧巌録』(中国の仏教書)五十一則の雪竇頌古(せっちょうじゅこ)の引用があります。

『城崎にて』は、直哉が山手線での事故後、療養先の城崎で、自らの体験から徹底した観察力で生と死の意味を考え執筆した作品です。先生は、「阿頼耶識(あらやしき)」「末那識(まなしき)」という大乗仏教の用語や「大自然の善意」という言葉なども使われながら、直哉が生と死を別物(対極)でなく、人と大自然を一体化(死生一如)していると話されました。

そして「『暗夜行路』にも禅宗に関連した記述があります」とその具体例を示されました。先生のご専門である泉鏡花の『化銀杏』(殺すよりも死ねばいいと絶えず思ってゐる事の方が遥かに残酷だ)の表記についても「直哉の心理に"唯識"の"阿頼耶識"に通じる観方があるのでは?」との観点から話されました。

なお、旧居復元の際、弦巻先生をはじめとする関係者にご執筆いただいて本学園が出版した『志賀直哉旧居の復元』中の写真や記述についても、「不明」とあった人物で判明者がいたり係累の記述不備があったりしたことなどのお知らせと共に、集合写真に写っている不明女性3人について「情報をお知らせください」とのことでした。

最後に北森貞次館長より、「文学をただ鑑賞するのではなく、極めて実証的なお話が伺えました。研究とはこういうものかと改めて教えられました」と弦巻先生の研究に臨まれる姿勢への敬服と深厚な講義へのお礼を伝えました。

受講された方々は「作品をしっかり読み込んで、いま一度先生のお話を聴きたいです」「直哉と禅宗との結びつきを禅宗研究のさなかにおられる先生の考察という奥の深い内容の講義でした」「心境小説家の直哉の作品を読むに際し、こういう背景を知ってるのと知らないでいるのとでは、読みの深さが全然違ってきます」などと話されていました。来週は相愛大学教授の橋元淳一郎先生による「物理の時間、生命の時間」です。

講座が終了した頃、若草山の上から春日山にかけて大きな虹がかかり、旧居二階の客間からの眺めは最高でした。

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