学校法人奈良学園

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◇2012-07-30 (月)

夏期近代文学講座第6回を開催

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本学園のセミナーハウス・志賀直哉旧居で緑陰講座「文学表現の諸相」第6回を開催しました。講師は京都大学以文会評議員で文学講師の植村正純先生です。

連日の猛暑を少しでも凌ごうと、旧居の食堂は窓や立て戸をすべて外し、扇風機フル回転の夏仕様で受講生を迎えました。先生は「自由に飲み物や休憩を取ってくださいよ」と満杯の受講生をねぎらってから "井上靖の文学的表現"についての講義に入られました。

『桃李記』の続きからと『ある空間』『落日と夕映え』を読み、井上靖が小説の原則(フィクション)に則りながら、"人生の真実としての生と死"を追いかけていったことを読み取りました。

次に、井上靖の文体について、先生ご自身が15年前、井上靖の『本覚坊遺文』について書かれた「創作過程考―井上靖文学における素材・モティーフ―」を資料に、竹西寛子氏の井上靖の文体評価を引用しつつ、「揺るぎなく緊張感のある文体」と「人間の分からない部分を表出する説得力」とをもって読者に迫ってくるその「喚起力」を指摘されました。

そして「修飾語を排して主語と述語の揺ぎのない関係による、叙事を基調とする力強い文体」であり、「点綴体」と称される筆の運びの妙もあると話されました。つまり「大海の静かな潮が、少しずつ入り江に向かって波紋を進めていくように、壮大な作品世界も読者の心にわだかまりなくきめ細かに刻み込まれ、いつしかそれが綾(あや)となって積み上げられていく。彼の散文詩同様に、淡々とした叙事的語りの中に叙情が表出されるのだ」とのことです。

続いて、秦恒平氏の『井上靖短編集第六巻解説』中の「井上靖 話情の詩人」の下りを参考に、「巧んだとみえない話術に裏打ちされ、停滞せず話頭は波に乗って急所難所を景色よく、緩急もよく渡っていく。最もよい意味で筆に随(したが)い、筆を随え、独自の「話情」を、散文の長詩かのように奏でていく」文体だと学びました。

先生はまた、秦恒平氏が井上靖から聞いた言葉に、「自然に老いたい」と「自然に老いた人や景色は美しい」の二つがあることも紹介されました。井上靖の『歩測』についてもエピソードを添えて説明され、「彼は自分の足で、肌で味わい表現することを生涯続けた人だ」と話されました。

休憩を挟んで、斎藤茂吉の『赤光』晩期の歌を読み、ここでも茂吉の「音」と「声」(逆に音のない世界への意識)に対するアンテナの精度の良さを読み取りました。次の最終回では『あらたま』ほかです。秋の講座の前触れもあり、そこでは比較的異色な作家の短編を数々取り上げたいとのことで、受講生の皆さんは早くも食指を動かされた様子でした。

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