学校法人奈良学園

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◇2025-10-20 (月)

10月の志賀直哉旧居

  • 10月の志賀直哉旧居
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 やっと爽やかな秋風を感じる季節となりました。
真夏の強烈な陽射しを受けて深く色づいた庭の緑は、少し落ち着きを帯び、柔らかな光の中で優しく輝いています。


 今年の旧居の庭では、柿の実が例年になく豊かに実りました。
昨年は実りが乏しかっただけに、今年は枝が重みでしなり、橙色の果実が鈴なりになって秋の陽を受けています。
足元には、黄緑色のまん丸な花梨(カリン)の実が、苔と枯葉の上にいくつも転がり、熟した甘い香りを漂わせているようです。
苔むす緑と、朽ちかけた果実との対比が、まるで絵画のような美をつくり出しています。
純白の秋明菊(シュウメイギク)も今を盛りと咲き誇り、花弁が秋の光をやさしく受け止めています。
旧居のサンルームの窓から眺める庭は、こうした季節の移ろいを一望できる大きなスクリーンのようです。


 志賀直哉がこの家に暮らしていた頃、このサンルームは単なる陽の光を楽しむ間ではありませんでした。
ここは、文化人や芸術家たちが集い、互いの感性を磨き合う知的なサロンとして機能していたと伝えられています。
例えば、谷崎潤一郎がここ高畑の志賀邸を訪れ、雑談を交えながら延々と文学や芸術について来訪者たちと共に意見を交わしたそうです。
また、白樺派の中心人物である武者小路実篤や、文芸評論家の小林秀雄もこの場を訪れ、互いの芸術観をぶつけ合いながら人生を語り合ったと言われています。
旧居のサンルームから外の静かな庭を眺めていると、思想や感性が交差した当時の知的サロンの空気が、今もそこに漂っているかのように感じられます。
ここは、志賀直哉という作家にとって「人と交わり、思想を磨く空間」であったのでしょう。
秋の柔らかな光がサンルームに差し込み始めた今、ここに集った彼らの声が、ふと風の中から聞こえてくるような錯覚を覚えます。


 最近では海外からの来訪者も増え、静かな庭とサンルームの光を通して、日本の美と精神性を味わう姿が見られます。
国や言葉を超えて、志賀直哉の創作の息づかいを感じ取ろうとする人々が訪れる光景は、どこかこの場所の本質を映しているようにも思われます。

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