◇2025-10-04 (土)
奈良学園セミナーハウス・志賀直哉旧居にて、株式会社古梅園 取締役営業部長の竹住享様を講師にお迎えし、奈良学園公開文化講座 第81回「古梅園の墨づくり」が開催されました。
古梅園は1577年創業。
創業時はお酒やお味噌の商売をされていたそうですが、室町時代より約400年近くにわたり墨づくりを続けてこられた老舗です。
講座の中で、夏目漱石が詠んだ「墨の香や奈良の都の古梅園」という俳句を掛け軸で紹介され、その言葉に込められた墨への敬意と奈良の歴史の深さを感じる時間となりました。
竹住様は、古梅園に伝わる墨づくりの歴史について、これまで口伝や断片的な記録しかなかったものの、2009年に奈良女子大学の科学的研究によって多くの製造記録や文献が発見・整理されたことを紹介してくださいました。
奈良が墨づくりの中心地となった背景には、数多くの寺院が集まり、経典や仏画を記すために墨が欠かせなかったという仏教文化の影響があるそうです。
かつては中国などからの輸入品が主流でしたが、日本独自の墨づくりが確立されていく過程を、資料とともに丁寧に解説してくださいました。
また、煤(すす)と膠(にかわ)、そして香料を練り合わせるという伝統の製法の様子が映像で紹介され、参加者はその緻密な工程に見入っていました。
墨に紅の色素をわずかに混ぜることで、黒の深みを際立たせたり、微妙な色合いの違いを表現するなど、職人たちの繊細な工夫にも触れられました。
講座では、歴史の中で名を残してきた名墨や今も日常の書に使われている墨が紹介され、受講者は実際に多くの墨を手に取り、その重みや質感、香りを確かめる貴重な体験をしました。
奈良の伝統工芸として脈々と受け継がれてきた墨づくり。
その背景にある精神や美意識を感じ取るひとときとなりました。