◇2023-03-27 (月)
先月の「2月の志賀直哉旧居」の記事の中で、「若草山は二階から直接に眺めることができるのが冬場だけで、春になると樹木の向こうに隠されてしまいます」と書きましたが、その樹木が先日、伐採されたようです。今後は旧居から1年を通して若草山を臨むことができるようになります。おそらく志賀直哉がここに居住していた頃は、同じように常時、若草山の四季の風景を眺めることができたと予想されます。やっと志賀直哉が目にしていた眺望が戻ってきました。
旧居の表門に入ると、空を覆うほど満開のハナモモ(花桃)が訪問者を迎えてくれます。足元の苔の上に深緑の絨毯に舞い落ちた春色の可愛い花びらや、アセビ(馬酔木)の白い花が、季節の変わり目を感じさせてくれています。裏庭にはラッパスイセンやニホンスイセン、スズランスイセンなど多種多様なスイセンの花が庭を彩っています。また、開花季節が終わったツバキ(椿)が、寒い季節を名残惜しむかのように、花ごとポトリとそのままの姿で石畳の上に落ちています。
ツバキによく似たサザンカ(山茶花)は、花びらがハラハラと舞って散るのに比べ、ツバキはまるで首が落ちるイメージを重ね、特に武士の間では縁起の悪い花だと思われてきました。一方では、思いっきりの良い覚悟を秘めた心意気を表す花であるという捉え方もあるそうです。実際は、虫ではなく蜜を吸いに来た鳥に花粉を運んでもらうため、花びらをつなげて花そのものを丈夫にしたというのが理由だそうです。
春の暖かい陽光が差し込むサンルームの隣のセミナールーム窓際には、春の仏像出窓展として大原館長が木彫りした「地蔵菩薩」「救世観音」「文殊菩薩」の彫像が展示されています。
百花爛漫と言うまでの艶やかさはないものの、むしろだからこそ旧居の庭に咲く季節の花を愛でる時間は、訪れる人々やセミナー受講をされる皆様に静かな心の安らぎを与えてくれるようです。